先生、よかったですね。

子ども時代から大学に入るまで、ピアノを私に教えてくださった恩師が亡くなられたというお手紙が、先生の娘さんから送られてきました。

遠く離れた地に引っ越される前に、娘と息子も連れてご挨拶に行ったのが12年前。

早口で、せっかちで、おこりっぽくて、でもとってもハイカラで、パンが好きで、無邪気なお嬢様がそのまま齢を重ねたような方。

地方にいながら大正生まれのあの時代に、東京芸大を出ておられた勉強熱心で努力家の熱い熱い方でした。

ご挨拶に行ったとき、何度も同じ話を嬉しそうに繰り返される先生は、すでにアルツハイマーが進行している様子が感じられましたが、私の名前を何度も呼びながら、娘の名前を何度も尋ねながら、たくさんおしゃべりしたものです。

そして、その様子を静かにいつものように穏やかに見つめておられた旦那様。

お二人は、期せずして同じ日に別々の病院で亡くなられたそうです。

ずっと足が不自由だった先生に、いつもいつも静かに寄り添っておられた旦那様。せっかちですぐカッカカッカくる先生を、穏やかになだめる旦那様。

「お父ちゃん、お父ちゃん」、とすぐに旦那様を呼ぶんです。

本当に仲の良い、二人とも美しい白髪のおしゃれな、お似合いのご夫婦でした。

奥さんのことが心配で、きっと一緒に逝かれたんですね。

先生、よかったですね。これからもまたいつものようにずっとずっと一緒ですね。

先生、私先生の前では絶対泣かなかったけど、先生のところに行き始めたばかりのころ、帰り道悔しくて悔しくてよく泣いてたんですよ。言われていることが納得できなかったり、自分がうまくできなかったり、自分に腹を立てたり先生に腹を立てたり。

先生のピアノの右脇の木と木が組んであるところ、引っ込んでいるはずです。ごめんなさい、悔しさをぐっとこらえながら、いつも爪をそこに食い込ませてたんです。 でもあの時があるから今がある。

先生の「どっとっと、どっとと、そうそう!!うん、ぱ~ん、そう!!」と背中を叩かれながら弾いていた、あの背中の感覚と先生の興奮した声は決して忘れることはありません。
 
お父ちゃん、お父ちゃん、という声も忘れることができません。

ご夫婦に、本当にかわいがっていただきました。天国できっと私の父にも母にも会っていることでしょうね。私のこと、話してくださっていますか?

たくさん昔話をしてくださいね。本当に本当にありがとうございました。どうぞいつまでもお二人で仲よくお過ごしください。

先生、わたしピアノから離れてずいぶん長くなりますが、娘の最後のピアノの発表会に2台ピアノ弾くんですよ。聴いててくださいね。。。。。





コメント

  1. チーフさんのお気持ちがすごく強く伝わってきました。
    素晴らしいご夫婦だったのですね。
    お嬢さんとのピアノ、しっかり聴いてくださるはずです。
    頑張ってくださいね。

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    返信
    1. kaoriさん、そうなんです、とってもステキで愛らしいご夫婦でした。
      先日お墓参りも出来て、お寺の奥様が厳しい先生だったでしょ~なんて笑いながらお話もできました。
      家族以外であっても、ここに行けば会える、という場所があるのは、やっぱりいいな、と改めて思いました。

      削除

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